命をもっての償い『俺たちに明日はない』、の後のボニクラ

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

今日は旧作『俺たちに明日はない』(1967、アーサー・ペン監督)です。ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイのあまりにも素敵な銀行強盗に、世界中が釘付けになりました。そして、アメリカン・ニュー・ウェーブ(旧来のハリウッド映画に対抗する新しいムーブメントで、フランスのヌーベル・ヴァーグに寄せた呼称)を代表するエンディングも、印象的です。

学生時代に、この映画が好きすぎて繰り返し見た結果、セリフを完コピできるくらい記憶していました。今回久しぶりに見返したのは、ホリプロステージのミュージカル『ボニー&クライド』(通称:ボニクラ)の予習としてでした。ちなみに、『俺たちに明日はない』も原題はBonnie & Clydeです。

『俺たちに明日はない』へのひと言

死を持って償わせる意識。

若い頃はあまりにも「恋愛映画」的に見てしまい、ボニーとクライドの恋の逃避行にワクワクしていました。

見てください、この宣伝ポスター。ボニーの笑顔! クライドの笑顔!

しかし時を経て見直した時、やはり「盗みはよくないが、人の命を奪うことは最大の罪である」という倫理が、警察側にも犯罪者側にもある。この前提でストーリーが作られていることが明らかでした。

だから二人は逃げます。逃亡中に、さらに人の命を奪います。

シリアルキラーのように、殺人を何とも思っていない、というのではありません。ダメだと分かっているからこそ、彼らの人間味が観客に伝わります。

実際、逃亡中に意を決して老いる家族に会いに行ったり、兄弟を頼って旅を続けたりします。ボニーとクライドは恋人同士ですから、追われることのない普通の生活を夢見たりもします。100%不可能だと分かっていても。

そういうヒューマンなところが、犯罪者である二人を感情的に切り離すことはできない理由になっています。物語が進行するにつれ、体勢はかなり不利となり、恋愛よりも生死の問題になります。

映画のエンディングは、勧善懲悪スタイルですし、実際の出来事としてもそうでした。分かっていても、主人公に感情移入している観客として、結末は悲しいものでした。

『俺たちに明日はない』出来上がるまでの経緯

今考えるとこちらの方が面白いのですが、ウォーレン・ベイティの相手役に、シャーリー・マクレーン(実の姉)やナタリー・ウッドが候補に上がっていたというから、驚きです。完成した作品を見ると、フェイ・ダナウェイしか考えられない仕上がりになっているからです。

そしてボニーとクライドは恋人同士となりますが、クライドは性的不能を抱えています。当初脚本家はクライドをバイセクシャルとして描こうとしたそうですが、ペン監督が観客の感情移入を妨げないよう、異性愛者かつ性的不能としたのだそうです。プレイボーイで知られるウォーレン・ベイティがこの役を演じたのも興味深いですし、彼はプロデューサーでもあるので、この映画で型破りな配役、表現に挑戦する気持ちが強かったと思われます。

ウォーレン・ベイティは作品を白黒で撮りたかったが、スタジオ(ワーナーズ)が反対してカラーになったという逸話もあります。ボニーが母親を訪ねるシーンがあるのですが、非常に美しく郷愁の念を感じるもので、個人的にはカラーでよかったなと思います。

ミュージカル『ボニー&クライド』の演出

日本での『ボニー&クライド』は、宝塚でお馴染みの演目のようですが、ホリプロミュージカルの『ボニー&クライド』は2012年に公演されており、今回はそのリニューアル版のようです。

見ていながら「女性の演出だろう」と思っていたら、演出は瀬戸山美咲さんでした。

まず、映画では牧師の娘、ブランチ(クライドの兄バックの妻)がクレイジーな女性として描かれていますが、演劇ではものすごくしっかりとした女性です。これは、史実に近い描写と思われます。映画のブランチ役、エステル・パーソンズはアカデミー助演女優賞を受賞した名演技でしたが、いわゆる賢い女性ではありませんでした。演劇のブランチは真っ当で、良識に基づいて判断し、フラフラする夫の手綱を握っている感じがあります。

そしてボニー。ボニーは、殺人までした犯罪者にフラッとついていってしまったわけなので、実際軽い女かもしれません。また、当時gun moll(ギャングの娼婦)というあだ名で呼ばれたように、男性の付属品というか、おまけのように称されていたかと思います。

しかし演劇ではフラフラしているのはクライドで、堅気になる気もなく、根無草のようです。ボニーは詩の才能を見せ、二人についての詩を書きます。「クライド&ボニー」よりも「ボニー&クライド」の方が語呂がいい、と言いながら反論するクライドをかわし、観客はいつしか、ボニーがこのデュオをリードしているかのような気になります。

そのような、女性の賢さを感じた演劇でした。

また、演劇ではテッドという警官が登場しますが、映画『俺たちに明日はない』にはなかった役です。ネタバレになるので書けませんが、このテッドの存在により、物語はビタースウィートなものとなります。

映画、演劇、どちらも最高でした!

今日はこの辺で。

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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