視野や空間が閉じた演劇的感覚—『テレビの中に入りたい』

こんにちは、星読み☆映画ライターのJunkoです!

やっと映画館に行く時間ができて観に行った、『テレビの中に入りたい』(2023、ジェーン・シェーンブルン監督)。ビジュアルが、テレビに釘付けになっているティーンエイジャー。配給がA24で期待が高まるにもかかわらず、オーディエンス・レビューが低い(5段階中の1が多い)。これは何かある…。

左がオーウェン(ジャスティス・スミス)、右がマディ(ジャック・ヘヴン)。オーウェン(子役時はイアン・フォアマン)が中1、マディが中3の時に知り合い、『ピンク・オペーク』という土曜夜の番組(架空)を一緒に見る仲になります。

では早速、ひと言へ。

『テレビの中に入りたい』へのひと言

テレビの話ではあるけれど、描写は演劇的。

テレビはもともと、スタジオの中でカメラに向かって演じる形式から始まっています。本作ではとくに後半、まるで観客が演劇を見ているような感じがします。失踪していたマディが現れ、星座のプロジェクションを背景にこれまでを語るシーンは、演劇そのもの。芝居ゆえに、堂々としていて、それでいて次のテイクはなく、一発本番です。

演劇的と感じたもう一つの理由は、スペースの狭さかな。世界はもっと広いのに、ステージ相当の空間しか物事が起こっていないような、主人公たちのある意味「ちぢこまった感」もよく出ていました。

90年代のテレビ

一方のテレビ映像には、90年代のティーン向けテレビシリーズのざらつきが残っていました。番組「ピンク・オペーク」には、低予算ホラーやVHSのノイズ、ピンクやブルーに光る瞳など、独特の世界観があります。『ロズウェル』や『バフィー〜恋する十字架〜』など、異次元とつながる系のドラマとも重なります。

エンドクレジットには「Kodak」の文字。部分的にフィルムで撮られたのかなぁ、あの懐かしい粒子が、すでにノスタルジックでもありました。

また、土曜の夜にテレビを見ることは、アメリカ文化とも言えるでしょう。そう、長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」は、夜11時30分から深夜1時まで(東部時間)です。日本でも、フジテレビで『夢で逢えたら』をやっていましたが、ああいうゆるさがあります。

金曜や土曜の夜に、こうした番組をみんなが同じ時間に見ていて、週明けに話題にするのがお決まりでした。主人公のオーウェン、マディも一緒に「ピンク・オペーク」を見ますが、没入というか、だまって個人的に見るものでもありました。テレビの光を浴び続け、魂を吸い取られるような…。

ミックスジャンルの面白さ

さて、このマディは冒頭で自分がレズビアンだとして、オーウェンに「女が好き? 男が好き?」と聞きます。恋愛感情はいっさい育ちませんし、性的な関係もありません。

オーウェンが終盤、「ピンク・オペーク」に登場する少女と同じ衣装をまとうシーンがありますが、ここには現実と虚構の境界があいまいになったシュールさが出ています。

少女は学校の校庭脇に生き埋めにされてしまうというイメージもあり、どこか刹那的で、しかも安っぽい。現実と夢、男と女、生と死。そういった境界をスイスイと越えていく主人公たちがいます。

監督はトランスジェンダーを公表していたので、こういった境界のいいところどりが現れていました。オーウェンを演じたジャスティス・スミスはクィア(出典)、マディを演じたジャック・ヘヴンもバイナリーとのことです。

中学生の交流から始まる本作は、青春映画のようにも見え、番組「ピンク・オペーク」には低俗なホラー・ショーのように見えます。オーウェンがテレビに吸い込まれそうになるシーンもあるのですが、ここはホラーよりはコメディ。終盤、中年となったオーウェンが働くゲームセンターも、まるで「ピンク・オペーク」が現実になったかのような、悪趣味な内装。ここで働くオーウェンは滑稽で、大好きだったテレビ番組の登場人物になってしまったかのよう。

批評家好みの作品だったとは言え、それなりに楽しむことができました。邦題も優れていました。

最後に。プロデューサーに名を連ねるエマ・ワトソンは女優ではなく、A24所属の同名スタッフでした。音楽はAlex Gが手がけ、まさに90年代のサウンドと空気感でした。

今日はこの辺で。

映画公式サイト:https://a24jp.com/films/tv-hairitai/

Junko

1973年静岡生まれ、星読み☆映画ライター。アメリカ留学経験者、異文化交流実践者、広報コンサルタント。

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